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神戸家庭裁判所 昭和51年(少)2256号 決定

少年 I・N(昭三五・三・一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五一年五月一五日夕方、第六回神戸まつり二日目の行事終了後に、いわゆる暴走族が暴走行為をするのを見物するため、多数の群集であふれる神戸市内中心部のフラワロード付近に来たものであるが、

(1)  同日午後九時二〇分ころ、神戸市生田区○○町×丁目×番地先路上(○○○○交差点)において、タクシー営業中の○池○利運転の○○○タクシー株式会社所有の事業用普通自動車(○○××○×××)が多数の者に取り囲まれて停車し、右○池が危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同人らとともに、同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させるなどしたうえ、車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、その車体を焼毀(損害一、〇三一、五六〇円相当)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示しかつ数人共同して器物を損壊するとともに、威力を用いて右○○○タクシー株式会社のタクシー営業を妨害し

(2)  前同日、第六回神戸まつり(主催者神戸市民祭協会、会長神戸市長宮崎辰雄)第二日目の行事終了後における○○交差点付近の交通規制などに従事するため兵庫県警察本部葺合警察署交通課交通指導係長警部補○本○雄ほか一四名の警察官が大型輸送車(○×○×××号)に乗車して、同日午後一一時三〇分ころ、同市葺合区○○○○×丁目×番×号市道○○幹線○○車道(○○○百貨店前)に到着し、運転者を除き右○本ほか一三名の警察官が降車するや、ほか多数の者と共謀のうえ、右警察官らに対し投石し、木の棒で突くなどの暴行を加え、さらに右警察官らが右暴行を避けて右輸送車の後部座席に乗車するや、同輸送車内にいる右一五名の警察官らに対し投石し、木の棒で突き、同車の車体を押し、木の棒で車体を叩きつけ、運転席に飛び乗り、あるいは幌を引つぱるなどの暴行を加えて、同車のフロントガラスなどを破壊(損害額約一二二、〇〇〇円)し、もつて多衆の威力を示しかつ数人共同して器物を損壊するとともに、同警察官らの職務の執行を妨害し、その暴行により同警察官らのうちの別表記載の者六名に同表記載の傷害を負わせ

(3)  翌一六日午前〇時五〇分ころ、同市葺合区○○○×丁目××番地○○○○○自動車株式会社南側○○車道において、タクシー営業中の○井○博運転の○○○株式会社所有の事業用乗用普通自動車(○○××○××××号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右○井及び乗客が危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同人らとともに、同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させるなどしたうえ、車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、その車体を焼燬(損害額約一、三一三、四〇〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多数の威力を示しかつ数人共同して器物を損壊するとともに、威力を用いて右○○○株式会社のタクシー営業の業務を妨害し

(4)  同日午前三時ころ、同区○○○×丁目×番地付近の国道×号線○○車道において、タクシー営業中の○野○運転の○○タクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(○○××○××××号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右○野及び乗客が危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同人らとともに、同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させるなどしたうえ、車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、その車体を焼燬(損害額約九五〇、〇〇〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示しかつ数人共同して器物を損壊するとともに、威力を用いて右○○タクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し

たものである。

別表

番号

被害者氏名

傷害名

加療(又は全治)日数

○本○雄

右手関節捻挫、左肩胛部左上腕部

右下腿部右前腕打撲傷

加療約四六日間

○本○之

後頭打撲傷、右肩部上腕部挫傷、

左大腿部打撲擦過傷

〃 約七日間

○馬○和

右肘部左胸部左足関節部挫傷

〃 〃

○又○徳

右大腿部挫傷

〃 一五日間

○本○

右腰部左膝部打撲傷

〃 約一〇日間

○村○治

左肘部右下腿部打撲傷

全治 約三日間

(適用法条)

暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)・刑法二三四条・六〇条(以上は(1)・(3)・(4)の各事実について)

暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)・刑法六〇条・九五条一項・二〇四条(以上は(3)の各事実について)

(処遇の理由)

一  神戸まつりの夜、いわゆる暴走族が神戸市内中心部のフラワーロードや国鉄三宮付近を我が物顔に走りまわつたがそれを見物に来た多数の群集が暴徒化し、通行中のタクシー・警察車を含む多数の車を襲撃し、死者一名を含み警察官ら多数の者を負傷させるという事件を起したが、少年は一連の事件の初めから終りである翌朝まで現場に滞留し、本件犯行に次々と加わつて行つたものである。

二  その場の騒然たる雰囲気にのまれて本件を犯すに至つたものではあるが、しかし少年が自制できなかつたことについては、電車賃がなかつたので恐喝するとか乗りたかつたので放置してあつた単車を無断で乗つていくなど非行に対する安易な態度や喫煙・夜間外出・多数回の僅かな時間の遅刻・禁じられた場所での遊び・シンナー吸引など社会・学校内での規範を守ろうとする気持のないことなどが大きく関係しているものといわざるをえない。また、これは未熟で感情のコントロールが困難で衝動的で興奮しやすく調子にのるという少年の性格に根ざしているものと考えられる。

三  父母は長期間別居し、父は母以外の女性と長期間同棲し、少年はその女性を嫌つて父の家をとび出し、母の家に住んでいる。母は甘く、父は自己の側の問題に気付かず、自己が少年を引きとれば少年の非行はなくなるものと安易に考えている。少年に規律ある生活をさせ、自己および過去の行動につき十分考える機会を与えると共に、父母にも少年の将来につき十分考えさせる必要がある。

以上のとおりであり、少年を六か月程度少年院に収容し教育するのを相当と考えるので、少年法二四条一項三号・少年審判規則三七条一項により、主文のとおり中等少年院(短期)送致決定をする。

(裁判官 田中明生)

編注 いわゆる神戸まつり事件

この事件は、毎年神戸で行われている「神戸まつり」開催中の昭和五一年五月一五日午後九時ころから翌一六日午前三時ころまでの間、国鉄三の宮駅前フラワーロードに集結した多数の暴走族が、一般群集と呼応して、警察官による規制に反抗して、暴徒化し、投石、自動車転覆等を繰り返し、一時、付近は無法地帯の状況になつたものである。その間に、取材中のカメラマン一人が死亡したほか、多数の警察官一般人が負傷するなどの被害が発生した。この関係で、少年一四八人(うち身柄付六五名)が、暴力行為等処罰に関する法律違反、公務執行妨害、威力業務妨害、傷害、殺人等の非行により、神戸家庭裁判所に送致された。

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